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Kroiの音楽の何がすごいのか、完全にわかったので教えてあげます

こんにちは、みなさん音楽聴いてますか?俺はそこそこです。

ところで、みなさんKroiというバンドをご存知ですか?最近すごく注目されているバンドなので、もしかしたらすでに多くの人が彼らの音楽をご存知かもしれませんが、恥ずかしながら、俺は最近になって知りました。
それから俺も時たま聴いては普通にいいなーっと思っていたんですが、先日訪れた野外フェスでのパフォーマンスが本当に良くて、MVのそれと全く同じ出で立ちのメンバー各氏がステージに立つやいなや「やっべえライブしま〜す」との一言、その5秒後、本当にやっべえライブが始まって、本当に度肝を抜かれてしまったので、これを書いています。
ひとまず、Kroiの音楽をまだ聴いていない方はこの機会にどうぞ。


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言ってしまえば「現代の売れ線の邦ロック」なんですが、これがメジャーのシーンにいる日本のロック、結構おもしろくないですか?俺はおもしろいと思ってます。おもしろいと思うし、まだまだ発展の余地があると思う。
ストリーミング配信サービスの普及と音楽の聴取様式の多様化は、例えば10年前の4つ打ちロックのような「コレ!」といえる売れ線のスタイルを提示することが難しくした気がします。それは、邦楽ロックのような閉鎖的なシーンですら共通のことのようで、近年の邦楽ロック系の野外フェスのラインナップを見るとその音楽性の意外なまでの幅広さには驚かされます。
Kroiはそんな拡散した売れ線が交錯するシーンの中でも最も先鋭的かつビビッドな音楽性をメジャーデビュー後もなお維持しています。
もはやミクスチャー的な方法論は邦ロックのみならず日本のポピュラー音楽シーンの中でも当たり前に用いられるものになっていますが(米津玄師とか、星野源とか…より若者向けの音楽に目を向けるなら、Official髭男dismだって、Vaundyだってそうです)、Kroiのミクスチャー先は一貫して黒人音楽のそれです。R&B、ファンク、そしてhiphop────ほかのミクスチャー・ロックを標榜するロックバンドのそれよりずっと高い精度で彼らは黒人音楽のミクスチャーを実行しています。
そもそもロックという音楽が、いかに黒人音楽を内面化するかという課題と取り組んできた音楽といえ、ここまでルーツミュージックへの憧憬を露わにしながら邦楽ロックとして出力する技量はさすがと言えます。Kroiの商業的成功は、その音楽を続ける冒険心と、リスナーの感受性が化学反応を奇跡的に起こした結果です。

そして、彼らの成功には何の因果かコロナ禍が影響したといってもいいかもしれません。このバンドは2020年以降に大きく勢いを伸ばしたバンド、つまりコロナ以後が主な活躍の舞台です。彼らの楽曲はカラオケで歌われることのないままヒットを続けているわけです。日本のポップソングってカラオケで歌われることが前提で作られてきたから(Creepy Nutsのようなラップでさえ、ですよ)、これはちょっと異常なことです。Kroiの曲、あなたはカラオケで歌ったことがありますか?俺は難しくて歌えないと思う。カラオケで歌われることを前提としていない。──というよりむしろ、コロナ以後、カラオケで歌われることがヒット曲の必要条件ではなくなったと言っていいでしょう(たびたび引き合いに出して申し訳ないですが、髭男のコロナ以後の楽曲も非常に複雑な進行をしていて素人は歌いづらいです)。


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たとえばこの曲とか、ループ感の強い構成と24小節のソロ回しパートでかなり変則的なことをしているのですが、そこをいかにもJ-POP的な2段構成のサビでギリギリ曲全体の構造をリスナー把握させることに成功しています。好きなだけ好き勝手やっておきながらギリギリのところで「邦ロック」として成立させている。このバランス感覚はさすが、Kroiの得意技といえるでしょう。

比較的簡素なリフ中心で、8小節のビートが基本的な単位となる音楽の気持ちよさを、あくまで日本のポップスのルールを遵守したかたちで限界まで突き詰めていっている、彼らがそんなことをできるのは、(実はこれが重要な点ですが)シティポップの逆輸入的なリバイバル日本語ラップの流行を経て、日本のリスナーの音楽的素養が彼らの音楽性を受け入れることのできるまでに成長しているからといっていいかもしれません。

更に付け加えるならば、彼らの成功には彼らのスタンスが醸し出す独特のモード感も作用している気もしています。のらりくらりとしていてどことなく真剣でないようなステージングや、「Balmy Life」の「身を粉にしちゃいない」「気負いも感じない」のような歌詞からそのスタンスはよく感じられると思っていて、Kroiはシリアスな現実の課題や、暗い心象を歌にはしません。ただ享楽的に明るい世界があるだけです。
そこには、シティポップのリバイバル現象やVaporwaveの流行との連続性が指摘できます。それらの音楽で歌われるのは現実とは断絶した、うすぼんやりとしていて恍惚な空想の世界です。Kroiの態度はその空気を共有しているように思えます。

本来R&B、ファンクが持っていた黒人音楽特有のマッチョさや、hiphopの持つ現実との連続性をきれいに切り捨てて(もちろん音の面ではめちゃめちゃソリッドですが)、一瞬の享楽だけを音楽に落とし込み、それを全身をもって表現する。この見せ方は明らかに先進的かつ彼らにしかできない所業でしょう。

だってほら、めっちゃオシャレ。オシャレでありつつ、既存の邦ロックや日本のHIPHOPが描いてきたトレンド感とは微妙に隔絶していて、彼らにしかない色彩を放っている。いくらスターダムをのし上がって行ったその先でも彼らの空気感だけは崩してほしくない。
いまの邦ロックの一番面白い部分を担っている彼らに今後も目が離せないような、そんな気がしています。