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PAS TASTA 1stAlbumリリースパーティー『GOOD POP FOR YOU』感想

或いは、PAS TASTAはJ-POPを越境させたか?

 

2023年5月3日、渋谷wwwにて6人組ハイパー・J-POPユニット(俺がそう呼んでるだけです)PAS TASTAの1stAlbum「GOOD POP」のリリースパーティーが開催されたので、それの感想と、「結局のところPAS TASTAは何をしているのか?」という疑問に対する俺の考えです。

リリパ感想パートだいぶ後ろの方にあるのでそちらだけ見たい方はここから飛んでくださいね。 

オマケに最後にプレイリスト用意してるのでそちらだけでも是非......!

御託を読みたい方はこのままで。

御託

PAS TASTAをハイパー・J-POPユニットと呼ぶことにはある程度根拠があると思っていて、ちょっと難しい話になるんですけど... 

PAS TASTAは自分たちの音楽をJ-POPであると繰り返し主張している一方で、私たちリスナーは彼らの音楽をhyperpopだと認識しています。

なぜこのような乖離が起きるのか?

すべてのポピュラー音楽は送り手─テクスト─受け手の構造で成り立ちます(ここでのテクストとは作品であり、ライブであり、それらを取り巻くすべての言説を含みます)。

ポピュラー音楽は商品なので、必ず市場を経由して私たちの耳に届きます。市場を流通するなかでテクストの質は変容するため、送り手の意図と受け手の感想は必ずしも一致しない訳です。

そのため、私たちはポピュラー音楽を安易な作家論に結びつけるべきではありません。送り手と受け手の相互のコミュニケーションの中で形作られる流動体としてポピュラー音楽を認識すべきです。

......という訳で、俺はPAS TASTAをハイパー・J-POPユニットと呼称しています。

もっとも、彼らは自分たちの音楽をhyperpopと括られることを歓迎しないかもしれませんが。

この「hyperpopに括られがちなミュージシャンが自分の音楽をhyperpopだと呼ばれることを嫌う文化」はhyperpopを考えるうえでかなり重要だと思っています。

そもそも、hyperpopとは何でしょうか?hyperpopの旗手チャーリーXCXが"what is hyperpop?"と苛立ち混じりに表明したこととそれに対する反駁に関する考察は幾度となく繰り返されているため、ここで深く言及することはしませんが、至極簡潔にhyperpopを説明しようとするならば、次の3点にhyperpopの要素は集約されます。

①hyperpopはジャンルやシーンではない。敢えて形容するならば、hyperpopは一つの方法でありタグである。

そもそもジャンルやシーン概念はインターネット以降複雑に絡み合い過ぎていて例えば80年代のオルタナティブロックのように簡単に示せるようなものではありません。そのため、hyperpopを新興のジャンルやシーンと括ってしまうのは些か早計です。どちらかといえば、2010年代のポピュラー音楽に共時的に用いられだした編曲の技法(2分台に収められた尺、過剰なオートチューン、音割れを忌避せずに上げられまくった音圧などなど......)であり、そういった手法によって製作された楽曲に付されるタグであると考えるべきです。そう考えたほうがわかりやすいです。そして件の「hyperpopで用いられる編曲の技法」を解きほぐすと以下の2点になると考えます。

②hyperであること。

つまり、既存の音楽よりも何らかの要素が超越していること、越境していること、過剰であること。それは、トラックの音圧でも、譜割りの複雑さでも、BPMの速さでも、オートチューンの過激さでも、まあなんでもいいのですが、それが過剰主義(マキシマミズム)的に表出したものであると。音圧の高いトラックも、オートチューンも、もはや当然のごとくポピュラー音楽に用いられる要素ではあるのですが、それがとにかくhyperに表出している。

③popであること。これは俺がhyperpopを語るうえで②以上に大事な点であるように思ってるんですが、popじゃないhyperpopはhyperpopじゃないのです。つまり、実験的な要素を盛り込みすぎていて、もはやpopさを失っているhyperpopはhyperpopではない訳です。変拍子が複雑すぎるとか、ノイジー過ぎてメロディが死んでいるとか、そんな要素の蓄積でポップに聴けない音になった音楽はhyperpopとは呼べません。そういう音楽はhardcoreです。

とまあ、簡潔にと言ったにも関わらずここまで長くなってしまいました。それだけ、現代のポピュラー音楽を解きほぐすのは困難な試みなのです。あまりに多くの要素が併存し重なり合いすぎている。

まあ手早く知るには聴くのが一番いいでしょう。spotifyで適当にhyperpopで検索すれば無限にプレイリストが出てくると思います。

それで、個人的にはPAS TASTAの音楽は上の①②③の要素を満たしたまさしくhyperpop(或いは、hyperpopを内省的に再定義し直したpost-hyperpop)であるとおもうのですが、どういうわけか彼らは自身の音楽をJ-POPと定義します。

そういう訳で、お次はJ-POP概念と向き合ってみましょう。

fnmnl.tv

こちらのインタビューによれば単に「日本語の歌モノだから」と言われているためそれで終わっても良いのですが......(あとMステ出たいとも言っているため)。

J-POPの出自は1980年代後半にFM局J-WAVEが「洋楽っぽい邦楽」をラベリングするために付けられた名称です。それが90年代を通じて一般化して今に至ります。一方で皆さんもよくご存知だとは思いますが、別に今のJ-POPは洋楽っぽくありません(むしろ洋楽の対義語ですらある)。80年代にJ-POPの手法が確立してから洋楽とは別の道を歩み始めた、非常にガラパゴス的な音楽文化と考えるべきです。だってバンドが4つ打ちしてダンスミュージック鳴らす音楽なんて日本にしか無さ過ぎます。

で、PAS TASTAの意思を拡大解釈するならば、彼らは自分たちをそのガラパゴス的な音楽文化を継承する存在であると自己定義するわけです。そう考えるとPAS TASTAの音楽が理解できるような気がしてきます。

PAS TASTAの音楽は、J-POPと不可分に結びついた、客観的に見ればおかしな要素や歪んだ要素(ABサビのお決まりの構成、進行感が重視された編曲、唐突に挿入されるギターソロなどなどなどなど…)をメタ的に認識し、ミームをたっぷり含ませて解釈したうえで、インターネットらしいニヒリズムに立脚し、それをひたすら過剰主義的に表出させます。

その態度はhyperpopと共通するものです。

そして、個々のメンバーを見てみればその態度はより理解できるでしょう(彼らのアー写、「3D扇」はリーダーがいないことの現れに思えます)。


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最新作「ほぼゆめ」でJ-POPの完璧な脱構築に成功したKabanagu、バイレファンキの過激なサウンドをPOPに落とし込むhirihiriを筆頭に、phritz、ウ山あまね、yuigot、quoree(個々の話をしてるとキリないのでやめます) 、彼らのソロワークは明確に自分の立ち位置をメタ的に認識できている音楽を作っています。それは現代の音楽制作において不可欠なスキルだと思います。というか、こうしてPAS TASTAのメンバーを並べてみるとDJとボカロ勢が脇を固めてるのがニクいですね、J-POPを表明するうえでの隙が無い。

何はともあれ、彼らはJ-POPを越境(hyper)させ、グローバルな評価の対象になりうる、日本で一番最先端の音楽を鳴らしていると断言できます。ま、sunameri smoke初めて聴いたときから確信してたんですけどね

その態度はhyperpopが本来マイノリティのための音楽として発展したことと通底しているようにも思えます、J-POPというグローバル社会で取り残された辺境の音楽を越境させる試みです。

なんだ、やっぱりハイパー・J-POPユニットじゃないか!(伏線回収)

特に、先日リリースされたAlbum「GOOD POP」の完成度といったら凄まじくて、今のところ2023年ベストアルバムといって過言ではないです、明らかに。

ここからリリパの感想です。

そういうわけで、今回のリリースパーティーは否が応でも高まりまくる期待を背に開催されたわけですが……。

結果から言うと、完璧に最高です。

ここ最近のライブで完全に一位。ノーMCノー曲間で90分駆け抜けて、渋谷www X超満員のフロアが高すぎる音圧で震えまくってました。良すぎないか?

メインのDJがhirihiriで、PAS TASTA名義の楽曲を中心に各メンバーのソロ曲もまんべんなくかかってました。ウ山あまねの唄うまかったな~。ギターも弾いてましたよ。あとkabanaguの絶叫も豹変したオタクみたいですげえかっこよかったです。

あとは開場前のBGMがすごい良くて、センス良さそ~な観客たちもゆるーく踊ってました。

個人的にはhirihiriのファンなので彼のDJスキルの高さがハイライトでした。ライブだとDJの彼が一番輝きますね。

惜しむらくは、私たちリスナーがPAS TASTAの音楽をダンスミュージックとしてしか享受できなかった点で、多分あの場所で鳴らされていた音はまだ名前のついていない新しい概念だったのでしょう。明らかにJ-POPを越境している。そんな音楽が完成しつつあります。それこそハイパー・J-POPとでも名付けるべきの音楽が。それのノリ方がまだ発明されていない。

今回のリリパのつい前日にhirihiriの盟友lilbesh ramko主催のバビフェスが同じく渋谷wwwにて開かれてまして、そちらにも俺は行ってたんですが。

バビフェスのミュージシャンは世代的にもだいぶ若くて、初期衝動に溢れた彼らの音楽はPOPよりhyperが先行していた印象だった一方で(無論それも最高です、特にokudakunとvqのステージはマジでやばかった)、PAS TASTAは自分の立ち位置をよーく確かめたうえで新しいシーンを開拓していこうというクールさ、余裕さすら感じましたね〜、本当に最高です。

ちなみに、GOOD POPで客演したミュージシャン全員来てました。豪華すぎん?特にピーナッツくん登場時の盛り上がり方が半端なかった。最早アイドルですね。崎山くんもいつものアコギなしで踊りまくってたのもよかったです。

客演で参加したミュージシャンはCwondo、ピーナッツくん、鈴木真海子、崎山蒼志そしてPeterparker69(こうして並べてみると壮観すぎる...)。PAS TASTAの面々ですら個性が際立ったメンバーなのに、彼らを中心に出自も経歴も違いすぎるミュージシャンが集って新しい音楽が形作られてゆく現場を目撃してしまいました、俺は。

最後に、アンコールでall nightが流されたのが感動的でしたね。この曲からすべてが始まったという感じがして...

それでは。

おまけ、開演前のBGMで流されてた曲と今回のセットリストから覚えてたものを抜き出したり、個人的にGOOD POPの雰囲気に合う曲を足したりしたプレイリストを作ったので、こちらもよろしければどうぞ...