見た夢の話
また配給が減った。
外の世界の事情はよくわからないが、少しずつ減る毎日の食事と、反比例して増える"あの人たち"に関する良くない噂は、俺のような何事にも無関心な人間にも状況の悪さを教えてくれていた。
先日訪れたレジャー地区の泳用貯水池の塩素の匂いを思い出す。あれはそこそこ楽しかった。たまには運動したほうがいいかもしれない。
研究室のメンバーは今日も無口で、黙々と目の前の端末と向き合っている。
次の交代まであとどれくらいか........ぼんやりと壁掛け時計を見上げること数刻、突如として響き出す喧しい警報音。
電流が走ったかのように椅子からはね起きる。他のメンバーも血相を変えて作業に取り掛かっている。
「早く!防護壁を回せ!」
俺の研究室は旧区画だから、二重の防護壁は手動式だ。まず、"ガラスのほう"の防護壁を引っ張り出して壁面に展開しなければならない。
レールに沿って防護壁を持ってくるだけなら簡単だが、一枚の窓のような"ガラスのほう"の防護壁を繋げるための金具を締める操作は複雑で、俺はいつも手間取ってしまう。
「いいから!これをやってて」
見かねた先生が信じられないくらい早い手付きで金具をジョイントする。
俺は先生に渡されたブロック型のウレタン材を防護壁の隙間に詰める作業を任された。こんなことをして、果たしてどれくらいの意味があるのか?
「こんなことをして、意味あるんですかねえ」
思わず軽口が出てしまう。
「いいから!早くしないと、"終の光"(ついのひかり)が来るぞ」
一喝される。他のメンバーも黙々と防護壁を取り付ける作業に没頭している。
終の光。
俺たちの人間の処理力ではどうしようもなく増え続ける外の世界の"あの人たち"の観測数が一定を超えると放たれる浄化の光。
その度に俺たちの脳細胞も少しずつ崩壊しているらしいが、確かめる術はない。
まあ、それを少しでも食い止めるためにこのウレタン材が役に立つなら、喜んで敷き詰めよう。
それにしても、終の光も少し昔に比べたら本当に多くなった。
防護壁を展開する度に酷使されるウレタン材の角はすっかり磨り減ってしまっていている。
"ガラスのほう"がようやく取り付け終わって、"鉄のほう"が四人がかりで展開される。大きな二枚の鉄の隔壁が目の前で閉ざされる直前、ガラス越しにいつか見た懐かしい光が見えた気がした。
ここで目が覚めました。なんの話ですか?