鼻紙diary

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【嘘の思い出】線香の匂いがする先輩の話

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文化祭の前日だった。

文化祭の準備で走ってる奴が嫌いだ。

そんなことを考えながらの、歩行。

もしかしたら皆さんも文化祭の一日前にせっま~い学校の敷地内をお駆けになっていたかもしれない。それ、走る必要ありましたか?

お前らの用事は走らなくても間に合うぞ~!って走って追いかけて教えてあげたい。あとトランシーバみたいな機械で話してる奴らにも、それLINEでよくね?って教えたい。それLINEでよくね?どうぞ。

 

出た出た、これだから陰キャさんは……どうせ文化祭で充実してる人たち見て僻んでるんでしょ?確かに、彼らへの僻みが無かったとは言わない。

何ならあった。俺も制服でディズニー行きたかった。いや行きたくないな。たぶん俺が行ってもトゥモローランドのゲームコーナーで一生アフターバーナーIIやってるだけだから。え、もうあのゲームコーナーないんですか?

 

とにかく、俺たちが校内を駆け回る奴らに抱いていた感情は僻みというより萎縮だ。中学時代の文化祭(これはマジで申し訳ないんだが、中学生のころの記憶が断片的過ぎて何年生のエピソードか覚えていない)、クラス中が一丸になってお化け屋敷の準備をしてる中俺は段ボールを持ったり持たなかったりして運んでる感じを演出し一日を過ごしていた。文化祭当日は仕事のない時間はずっと図書室で灼眼のシャナを読んでいた。

普通に、輪に入って準備に参加できないことが申し訳なかった。俺よりも割りきった考え方の奴は文化祭の一日前に学校に来なかったんだろう。中途半端にプライドと孤独の耐性がないやつがひたすら萎縮してた。たぶん、一生こうなんだ俺は………………。

 

ただ、高校一年の文化祭だけ、めちゃくちゃ覚えている。覚えすぎてて、あれから10年経過した今でさえ夢に見るし、線香の匂いがするたびに、思い出す。線香の匂いがするたびに。

 

高校一年生の俺は焦っていた。飾らずに言えばイキっていた(ちなみに高校デビューは普通にミスり、クラスの中心から一歩遠ざかった集団に属していた。人はそれをキョロ充という)。

まだ暑さの残る九月の初めだった。確か、夏休みが終わって数日もたたない頃で、高校は文化祭の準備で俄かにざわついていた。文化祭は九月の初めにあって、おれはそこで何かしてやろうという根拠のない衝動(それは、十代特有のものだということに最近気づいた)が渦巻いていた。具体的には彼女が欲しかった。それはもう、めちゃくちゃに。

 

思うのだが、高校一年ほど彼女をつくりたいし、しかもできる期間はない。だからここでガチればクラスの中心から一歩遠ざかった俺でも彼女ができる気がした。しかも学生が浮足立つことで世界的に有名な文化祭だ。逆にここで無理だったら一生教室の隅で緋弾のアリアを読もうと思っていた。

 

そんな、夏の終わりの、事件。

文化祭の前日だった。

文化祭の準備で走ってる奴が嫌いだ。

そんなことを考えながら、歩行。(ここで冒頭に戻ると理論上永久にこの文章を読めます)

 

前夜祭の最高潮にクラスメイトの高木さんに告白しようと思っていた。事前情報によれば高木さんに彼氏はいない。理科の実験で同じ班だった時に結構話したし。根拠のない衝動が渦巻いていた。

 

そんな、夏の終わりに、事件。

よりにもよって廊下の曲がり角で。

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衝突。硬さと柔らかさが複雑に入り混じった感触。舞い上がる折り紙で作られた飾り的なやつ。そして強烈に鼻腔に流入する線香の匂い

体幹が終わってる俺は自分でも引くくらい後方に飛んで、なぜかキモイ姿勢で着地した。

俺と衝突した知らん女の先輩はその場に尻もちをついて「いたた……」とでもいった風に腰をさすったりしている。

これはあれか??!!平成ラブコメ元年か??!!(意味不明)

ラノベの読みすぎで脳が狂って4DXの幻覚が見えたのかと思ったがそうではないらしい。

始まってしまうのか?すまん、高木さん……(高木さんはこの文章に二度と出てこないので忘れてください)。

いや、待て。この女の先輩も廊下を疾走していたに違いない。ということはこのひとも「そっち側」か。この世には二種類の人間がいる。文化祭の準備で走る奴と、文化祭の準備で走らない奴。この両者にある溝は君たちが思っているよりも大きい。

立ち上がった女の先輩は俺よりデカかった(当方165cm)。

そのうえ異様なほど長い真っ黒な髪の毛は腰まである。

長い前髪で半分隠れた瞳のびっくりするくらい透き通った茶色と、口唇の薄い紅色。

足腰は折れそうに細くて、地味なセーラー服から露出して視認できる肌は猟奇的な白さ。

足元にはひらひらした折り紙で作られた飾り的なやつが散る。

その光景はまるで……なんだ……夏野霧姫(俺はラノベの読みすぎで脳が狂っている)?

「こんな人いたっけ……」ビジュアル面の強さのせいで衝突したこと自体は吹っ飛んだ。

霧姫は少しだけ申し訳なさそうな顔をしながらこっちに近づいてくる。デカい……

俺をやや見下ろすような姿勢でこう言われた。

「痛かったねぇ……?」

どの立場なんだ……?

理解が追い付かない。

「だ、大丈夫っす」絞り出す。

「怪我無いか見るから」ちょっと来て、

霧姫は俺の右手首を引っ張って駆けだした。いや、駆け出すのは状況的におかしくないか?

「いや、ほんとに大丈夫ですから」

俺の言葉も聞かず霧姫は廊下を小走りで駆け続けるし、足元のひらひらした折り紙で作られた飾り的なやつは床に完全に放置されていた。あれはなんだったの。そういう演出?

「ここ」

と、部室棟三階のPC部と囲碁将棋部に挟まれたちっさい教室に掲げられたプレートには

文芸部

うちの高校に文芸部ってあったか?

「本当になんもケガとかないんすけど…」

一応抵抗してみる。

「いいから。とにかく」

が、結局謎めいた迫力に負けて部室に上がらされた。

部室には何もなかった。やけに細長い。細長い教室に細長い机とパイプ椅子が設置してあるだけ。本棚すらなかった。長門有希の部室ですら本棚はあったぞ。ただ壁に忍耐と書かれた掛け軸が飾ってあった。これに関しては完全に謎。ノイズを設置しないでくれ。

 

「ほんと痛かったねぇ……?」

霧姫は俺をさび付いたパイプ椅子に座らせると俺に覆いかぶさるような姿勢で俺をまじまじと見つめる。線香の匂いが鼻という鼻をくすぐる。俺はどうすればいいんだ?俺は、俺は……

エッッッッッッッッッッッッ!!!?!?!?!???????

すいません、えちえちセンサーが作動してしまいました(このとき顔と顔とが近距離で向かい合っていたのだが気まずさが気まずさとかそういう次元を超越しているのでずっと薄ら笑いを浮かべたまま斜め右上の虚空を見つめていた)

一通り俺を眺めつくす(ケガがないか確認したのか?)と霧姫は満足げに立ち上がって部室の窓を閉めにいった。晩夏の少し湿っぽい風は遮断され、途端部室の空気は淀む。

このままネットワークビジネスの勧誘を受けてもギリ理解の範疇だったが(これは完全に余談だが、以前ゲーセンで格ゲーをやっていた時に親し気に話しかけられたと思ったら宗教の勧誘だったことがある。みんなも気を付けよう!)。

「アイスティーしかなかったけど、いいかな?」

え…………?まずいですよ!せんぱぁい(中川圭一)!

「いやっ、もう大丈夫なんで…」

「アイスティー、嫌いだった?」

「そういうわけじゃないですけど……」

「ちょっとまってて」

「…………」

そういうと霧姫はどこからか飲みかけのアイスティーのペットボトルを取り出し俺に差し出す。

「これ……先輩のじゃないすか」

「うん。私はいいから」

そういう問題か?ここで俺が彼女を先輩と呼んだわけだがそれは他に適当な呼称がなかったからで、後にも先にも彼女を名前で呼ぶことはなかった。

何故か引き下がれない雰囲気が出てしまったので、観念してペットボトルに手を伸ばす。地獄のようなティータイムだ。地獄の放課後ティータイム(正確にはまだ昼前である)。

「じゃあ……いただきます」

「うん」

こちらを見ている。まじまじと。全神経が口元に集中しすぎて、飲み口に唇を付ける際に舌が先行しすぎてキモイ感じにねぶるようになってしまった。幸か不幸か、彼女の表情は全く動かない。

「何年生?」

うわ。この状況で会話するのか……?

「1年です」

「部活とかやってるんだ?」

「いや、帰宅部ですけど」

「へえ、一緒だね」

(じゃあここは何?)

「彼女とかいるでしょ?」

「いや、今はいないです、今は」

「ふーん、そうなんだぁ」

意味深な微笑みに線香の匂いが混じり、くらくらする。

「あのねえ。キミも学生なんだからさ……」

そのとき、風が吹いた。ように感じたが正確には俺の携帯が鳴った。

俺は普通に電話に出ようとした。何しろもう何十分かわからないが結構な時間クラスに戻っていないのだ。

しかし電話には出られなかった。

「だめ」

彼女の両手で俺の右手と携帯が接着された。強い力は込めてないはずなのに、俺の手は全くもって動かなくなってしまった。

その手はほのかに暖かくて、めちゃくちゃ細いのに、めちゃくちゃ柔らかくて、そのまま時間が止まった。空っぽの部室に俺の携帯の着信音(デフォルトで入っていた少年時代のオルゴールバージョン)が鳴り響いている。半径1メートルの中で世界が完結し、収束していた。この間、俺が呼吸をしていたかどうかは定かではない。ただ、その時にも確かに俺の嗅覚は線香の匂いを知覚していたから、恐る恐る鼻呼吸を試みていたのだろう。

彼女はよくわからないほど大きな瞳で俺をじっと見据える。誰のあこがれにさまよってんだ?俺は。

ザ・ワールドは少年時代の演奏が終わるのと同時に解かれた。

 

「あの、もう行かないと」

「うん。またね」

意外なほどあっさりと俺は解放された。

そのときの俺はクラスでの自分の立場を異常なほど重視していて、クラスでの居場所を失うことが死ぬより嫌だった(ちなみにこの後俺はクラスの中心から少しずつ自動的に遠ざかってゆき、物理的にも構造的にも俺はクラスの最外殻を構成することになったのは言うまでもない)。

そう考えるとあの時俺があの部室に残り続けていたらどうなっていたのだろうということは今まで779万回は妄想したし、この先も∞(インフィニティ)回は妄想するだろう。

 

それから、あの先輩とは会っていない。噂だと、文化祭の前後に急に転校していったらしい。聞いた話では、彼女はいつも一人でいるタイプの生徒だったらしく、彼女と会話したことのある人間はほとんどいなかった。じゃあ俺に見せたあの姿はなんだったんだ?未だによくわからない。

そもそも先輩は文化祭でなにをしようと思ってたのだろう。なぜ彼女は文化祭の準備で走っていたのだろう。なぜ文芸部の部室に?これは小説ではないのでそこら辺の伏線は回収されません。というか普通に誰か教えてくれ。もしかしたら、彼女も文化祭で変わろうとしていたのかもな。知らんけど。詳細キボンヌ(2009年のVIP)

 

結局、そのあまりに強烈な体験をしてしまったあとに告白などできるはずもなく、俺は残り二年半の高校生活を教室の隅でゼロの使い魔を読みながら過ごした。

文化祭が終わった後で文芸部の部室をのぞいてみたが、そこには誰もいなかった。

興味本位で掛け軸を捲ってみたら、真ん中にZZ(ダブルゼータガンダムのシールが貼ってあった。

もしかしたら霧姫が貼ったのかとその時はなぜか思って、シールをはがし大切に保管していたが、気付いたらどこかにいってしまった。

彼女の痕跡は何もかもなくなってしまったが、線香の匂いがするたびに思い出してしまうのだ。

俺の灰色の人生の中で、あの一瞬だけが鮮やかに再生される(YAZAWAプレモルのCMみたいに)、というのはさすがにキモ過ぎて死にたくなってきたな。

 

おわり